給与・賞与・社会保険料は法人税でどう扱われる?労務の支出と別表四のつながり
2026年10月 | カテゴリ:実務
給与計算や社会保険の手続きは「労務」の仕事ですが、そこで動いたお金は、決算で「法人税」の計算にもつながります。 人件費の大部分はそのまま損金(税務上の費用)になりますが、役員給与・決算賞与・交際費の3つは、 会計では費用でも税務では損金にならないことがあり、法人税申告書の別表四で所得に加算する調整が必要になります。 この記事では、労務で扱う主な支出が法人税でどう扱われるかを、労務の視点から整理します。
労務の支出と法人税の扱い 早見表
社会保険・労働保険での扱いと、法人税での扱いを並べました。「別表四」の列に記載があるものは、要件を満たさないと所得に加算する調整が必要です。
| 支出 | 社会保険・労働保険 | 法人税 | 別表四 |
|---|---|---|---|
| 従業員の給与 | 報酬・賃金として保険料の対象 | 原則として支給した年度の損金 | 通常は調整なし |
| 従業員の決算賞与(未払計上) | 支給時に賞与支払届・標準賞与額 | 要件を満たせば、通知した年度の損金 | 要件を欠くと加算(留保) |
| 役員報酬(毎月) | 報酬として標準報酬月額の対象。労働保険の賃金には含まない | 定期同額給与なら損金 | 期中増額などは加算(社外流出) |
| 役員賞与 | 賞与支払届・標準賞与額の対象 | 事前確定届出給与なら損金 | 届出どおりでなければ加算(社外流出) |
| 社会保険料(会社負担分) | 健保・厚年・介護の事業主負担 | 計算の対象月の末日の属する年度の損金にできる | 通常は調整なし |
| 労働保険料(会社負担分) | 年度更新で概算・確定保険料を申告 | 申告書の提出日または納付日の属する年度の損金 | 通常は調整なし |
| 社内行事・慶弔見舞金 | — | 全従業員向けで通常の範囲なら福利厚生費 | 交際費等に当たる部分は限度超過額を加算 |
※ 一般的な取扱いの整理です。個別の判断は税理士・税務署にご確認ください。
① 役員給与:損金になる「形」が決まっている
役員に支給する給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のどれかに当たらないと損金になりません(法人税法第34条第1項)。 労務の手続きとの接点は次の2つです。
役員報酬を上げると、社会保険では随時改定(月額変更届)の対象になります。法人税では、期中の改定は事業年度開始から3か月以内の改定などに限られ、それ以外の増額分は損金になりません。
役員賞与 × 賞与支払届
役員賞与も賞与支払届の対象ですが、法人税では支給時期と金額を事前に税務署へ届け出て、そのとおりに支給しないと損金になりません。
損金にならない役員給与は、別表四の「役員給与の損金不算入額」で加算します(処分は社外流出)。 なお、部長などを兼ねる使用人兼務役員の使用人分の給与は、この規定から除かれます。
② 決算賞与:未払のまま損金にするには3つの要件
従業員への賞与は、原則として支給した日の属する事業年度の損金です。決算期末に「決算賞与」を未払で計上し、その期の損金にするには、次の要件をすべて満たす必要があります(法人税法施行令第72条の3第2号)。
- 支給額を、各人別に、かつ同時期に支給を受けるすべての使用人に通知している
- 通知した額を、通知した日の属する事業年度の末日の翌日から1か月以内に、通知を受けたすべての使用人に支払っている
- その支給額を、通知した日の属する事業年度に損金経理している
要件を欠くと、計上した期では損金にならず、別表四で加算(処分は留保)し、実際に支給した期で減算します。 社会保険では、実際に支給した月に賞与支払届を提出します。
③ 福利厚生費と交際費の境目
社員旅行・忘年会など全従業員を対象とした通常の範囲の社内行事や、慶弔規程に基づく従業員への慶弔見舞金は、福利厚生費として損金になります。 一方、取引先への接待・慶弔・贈答は交際費等に当たり、中小法人でも年800万円(または接待飲食費の50%)を超える部分は損金になりません。 交際費等の損金不算入額は別表十五で計算し、別表四で加算(社外流出)します。
なお、社内の役員・従業員だけの飲食は、1人あたりの金額にかかわらず「1人1万円以下の飲食費」の除外の対象になりません。
社会保険料・労働保険料は「いつ」損金になるか
保険料の会社負担分は、別表四の調整は通常ありませんが、損金になる時期のルールがあります。決算月の保険料をどの期に入れるかで迷いやすいポイントです。
会社負担分は、保険料の計算の対象となった月の末日の属する事業年度の損金にできます(法人税基本通達9-3-2)。たとえば3月決算なら、翌月末に納付する3月分の保険料も、3月期の損金にできます。
労働保険料
概算保険料の会社負担分は、年度更新の申告書を提出した日、または納付した日の属する事業年度の損金です。従業員負担分は立替金などとして処理します(法人税基本通達9-3-3)。
決算賞与を受け取る方・役員に就任する方へ
会社の税金のルールは、受け取る側の手取りや保険にも関わります。知っておくと安心なポイントです。
✅ 決算賞与の「通知」は、原則1か月以内に支払われる約束です
期末に決算賞与の額を通知された場合、会社が損金にするには決算日の翌日から1か月以内に支払う必要があります。 支給されたら、社会保険料と所得税が差し引かれます。支給が大きく遅れる場合は、会社に確認しましょう。
✅ 役員になると、雇用保険と労災保険の扱いが変わります
役員は原則として雇用保険・労災保険の対象外です。使用人を兼ねて労働者性が認められる場合は、使用人としての賃金部分で引き続き加入できます。 詳しくは雇用保険 適用除外チェックで確認できます。
✅ 役員報酬は、原則として期中に自由に変えられません
会社が損金にできるよう、役員報酬は事業年度の初めに決めて毎月同額とするのが一般的です。 業績が良くても期中の増額は難しいことを知っておくと、報酬の交渉や生活設計に役立ちます。
試験対策ポイント(社労士・税理士)
- 社労士:役員報酬は健康保険・厚生年金の「報酬」に含まれるが、労働保険の「賃金」には含まれない(使用人兼務役員の使用人分は賃金)
- 社労士:賞与は年3回以下の支給が標準賞与額、年4回以上は報酬(標準報酬月額)に含める
- 税理士(法人税法):役員給与は定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与以外は損金不算入(法34条1項)
- 税理士(法人税法):使用人賞与の未払計上は「通知・1か月以内支払・損金経理」の3要件(令72条の3)
- 税理士(法人税法):社内飲食費は「1人1万円以下の飲食費」の除外の対象外
法人税法 第34条(役員給与の損金不算入) e-Gov
定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも該当しない役員給与は、損金の額に算入しない。
法人税法施行令 第72条の3(使用人賞与の損金算入時期) e-Gov
各人別・同時期の全使用人への通知、事業年度末日の翌日から1月以内の支払、損金経理の要件を満たす賞与は、通知日の属する事業年度の損金とする。
法人税基本通達 9-3-2・9-3-3(社会保険料・労働保険料の損金算入の時期) 国税庁
健康保険料・厚生年金保険料の法人負担分は計算の対象となった月の末日の属する事業年度、労働保険の概算保険料は申告書の提出日または納付日の属する事業年度の損金とする。
別表のつながりを学ぶ(姉妹サイト 別表.com)
法人税申告書の別表を、欄をクリックして転記元・転記先をたどりながら学べる学習サイトです。労務ハックと同じ運営者が運営しています。