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健康保険 扶養制度の見直し論

2026年4月 財務省審議会が提起
【現時点での位置づけ】 これは「廃止が決まった」制度改正ではありません。 2026年4月28日に財務省の財政制度等審議会で見直しを検討すべきと提起された段階です。 ただし、健保組合の財政悪化と社会構造の変化を背景に、議論は本格化する見通しです。 今後の動向を把握しておくことが実務・試験の両面で重要になります。
出典:財務省 財政制度等審議会 財政制度分科会(2026年4月28日) 「持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)」 ⇨ 財務省資料(PDF)を見る

なぜ今、扶養制度の見直しが議論されるのか

2026年4月28日、財務省の財政制度等審議会(財政審)は健康保険の被扶養者制度の抜本的な見直しを提起しました。 背景には健保組合の深刻な財政悪化があります。

約7割
健保組合が赤字
(全1,388組合中)
2,890億円
健保組合の赤字総額
(2025年度見込み)
2,500万人以上
被用者保険の被扶養者数
(6,800万人加入者中)

被扶養者数の内訳(2023年10月時点)

保険者被保険者数被扶養者数うち20歳未満
協会けんぽ2,810万人1,439万人804万人
健保組合1,674万人1,136万人651万人

出典:健康保険・船員保険被保険者実態調査(2023年10月)、健康保険組合連合会「年齢階級別加入者数調査」(2024年10月末)

構造的問題: 被用者保険では働く被保険者の保険料で扶養家族全員をカバーする構造です。 協会けんぽだけで1,439万人・健保組合で1,136万人、計2,500万人以上が保険料負担ゼロで医療給付を受けています。 財務省は「社会保険制度の個人単位化が求められる」と明示しました。

扶養制度の歴史 — なぜ「時代遅れ」と言われるのか

制度の変遷
1922年(大正11年)健康保険法制定。給付対象は被保険者本人のみ
1939年(昭和14年)家族給付を任意で導入。「銃後の守り・職場挺身者の家族の生活安定」が背景
1948年(昭和23年)被扶養者の範囲を法律で規定(それまでは勅令)
1973年(昭和48年)被用者本人を1割負担化・家族を3割負担化
2002年(平成14年)本人・家族の自己負担割合を3割に統合
財務省の資料では「銃後の守り、あるいは職場挺身者の家族の生活安定が求められたのが背景」と明記。 戦時体制向けの制度が85年以上そのまま維持されてきたことが問題の本質です。
時代標準家族モデル扶養制度との整合性
1939年(創設当時) 夫が出征・妻が専業主婦 整合していた
高度経済成長期〜バブル期 夫が会社員・妻が専業主婦 おおむね整合
2020年代(現在) 共働き世帯が専業主婦世帯の約2倍 乖離が拡大

国民健康保険との不公平感

国民健康保険(国保)には「扶養」という概念がありません。 世帯員の人数に応じて保険料が加算されるため、 同じ収入構成の世帯でも、会社員か自営業かによって保険料に大きな差が生じています。

比較項目会社員の妻(被扶養者)自営業者の妻(国保加入)
保険料(年額) 0円 約6.5〜8.2万円
扶養概念 あり(130万円未満なら無料) なし(収入に関わらず課金)
子供の保険料 0円 人数分加算
医療給付 同等 同等
財政審の指摘: 「同じ医療給付を受けながら、会社員の妻は保険料ゼロ、自営業の妻は年数万円という非対称性は制度の公平性として問題がある」

今後の方向性 — 「家族単位」から「個人単位」へ

財政審が示した議論の方向性は、社会保険の負担構造を「家族(世帯)単位」から「個人単位」に転換するというものです。 この流れはすでに複数の改正で始まっています。

財務省が指摘した「法的建て付けの問題」

健保法第110条は「被保険者の被扶養者が療養を受けたときは、被保険者に対し…家族療養費を支給する」と規定しています。 被扶養者は実際に医療を受けているにもかかわらず、法律上の権利は被保険者(夫等)に帰属する構造です。

  • 医療費通知が被扶養者本人でなく被保険者(夫)に送付される → 個人情報保護の問題
  • DV(家庭内暴力)のケースで、医療費通知の医療機関名から被害者の居場所が発覚した事例あり
  • 被扶養者に「保険証を使う権利」はあるが、制度上は「被保険者の権利の代理行使」という建て付け

出所:本多伸行「加入者目線に立ち時代にかなった健保法改正を望む」(週刊社会保障 2020年7月6日)を財務省資料が引用

既に進んでいる個人単位化の流れ

  • 医療費の窓口負担:「年齢ベース」から「所得ベース」へ(75歳以上も所得により2〜3割負担)
  • 社会保険料の算定基礎:労働所得に加え「金融所得」を反映させる議論が進行中
  • 被扶養者認定基準の厳格化:2026年4月から雇用契約ベースの確認が義務化
  • 社会保険の適用拡大:2026年10月に106万円の壁が撤廃(週20時間以上は全員加入)

議論される「扶養廃止」の想定シナリオ

  • 被扶養者(主に専業主婦)にも国保相当の保険料を課す
  • 子供の被扶養者も段階的に有料化(未成年者の扱いは未確定)
  • 見返りとして、被保険者本人の保険料を引き下げる可能性(未確定)

家計への試算(シミュレーション)

※以下は「もし個人単位化が実施された場合」の試算です。現行制度への変更ではありません。
ケース現行(家族単位)個人単位化後(試算)差額(年)
会社員 + 専業主婦 本人分のみ 本人分+妻分(約7〜8万円) +約7〜8万円
会社員 + 専業主婦 + 子2人 本人分のみ 本人分+妻分+子2人分(未確定) +約15〜20万円以上?
共働き世帯 本人・妻それぞれ支払い ほぼ変わらない見込み 影響小

国保保険料額は自治体により異なります。上記は全国平均水準をもとにした概算値です。 子供の保険料については現時点で未確定です。

確定情報 vs 未確定情報の整理

項目状況内容
健保組合の赤字 確定 約7割が赤字・総額2890億円(2026年4月28日発表)
財政審での議論提起 確定 財務省財政制度等審議会が2026年4月28日に見直しを提起
扶養廃止・個人単位化の実施 未確定 議論中。実施・時期・方法はすべて未定
新たな保険料額 未確定 国保相当(年6.5〜8.2万円)との試算はあるが正式未定
子供(未成年)の扱い 未確定 国保では課金対象だが、被扶養者の子供をどうするかは議論中
本人保険料の引き下げ 未確定 扶養廃止の見返りとして下がる可能性はあるが未定

社労士試験対策ポイント

① 現行の被扶養者認定:収入要件(年齢別特例あり)

対象収入要件
一般(〜59歳)130万円未満かつ被保険者の収入の2分の1未満
60歳以上・障害者180万円未満かつ被保険者の収入の2分の1未満
19歳以上23歳未満(配偶者除く)150万円未満(特定被扶養者)
18歳以下・在学中の学生収入要件の適用なし(生計維持で認定)

根拠:厚生労働省保険局通知(150万円特例は健保法施行令第37条)

② 国保と健保の被扶養者の違いを整理

国保に「被扶養者」の概念はなく世帯員全員が被保険者(保険料が発生)。 健保・共済のみ被扶養者制度がある。この対比は試験頻出。

③ 2026年4月の認定基準見直しは別の改正

雇用契約ベースの確認義務化(月額10.8万円・週20時間)は2026年4月施行の確定改正。 財政審の扶養廃止議論とは別物として整理すること。 →詳細は被扶養者認定基準 2026年4月改正 解説を参照。

③ 年金の第3号被保険者とセットで議論されている

財務省資料では「公的年金制度の第三号被保険者制度のみならず、医療保険における『被扶養者』のあり方についても見直しを検討すべき」と明記。 厚生年金の第3号被保険者(専業主婦等)の保険料免除問題と一体的に議論が進む見通しです。 社労士試験では健保の被扶養者と厚年の第3号を関連付けて理解しておくことが重要です。

④ 法的根拠

健康保険法第3条第7項(被扶養者の定義)⇨e-gov