健康保険 扶養制度の見直し論
2026年4月 財務省審議会が提起なぜ今、扶養制度の見直しが議論されるのか
2026年4月28日、財務省の財政制度等審議会(財政審)は健康保険の被扶養者制度の抜本的な見直しを提起しました。 背景には健保組合の深刻な財政悪化があります。
(全1,388組合中)
(2025年度見込み)
(6,800万人加入者中)
被扶養者数の内訳(2023年10月時点)
| 保険者 | 被保険者数 | 被扶養者数 | うち20歳未満 |
|---|---|---|---|
| 協会けんぽ | 2,810万人 | 1,439万人 | 804万人 |
| 健保組合 | 1,674万人 | 1,136万人 | 651万人 |
出典:健康保険・船員保険被保険者実態調査(2023年10月)、健康保険組合連合会「年齢階級別加入者数調査」(2024年10月末)
扶養制度の歴史 — なぜ「時代遅れ」と言われるのか
| 年 | 制度の変遷 |
|---|---|
| 1922年(大正11年) | 健康保険法制定。給付対象は被保険者本人のみ |
| 1939年(昭和14年) | 家族給付を任意で導入。「銃後の守り・職場挺身者の家族の生活安定」が背景 |
| 1948年(昭和23年) | 被扶養者の範囲を法律で規定(それまでは勅令) |
| 1973年(昭和48年) | 被用者本人を1割負担化・家族を3割負担化 |
| 2002年(平成14年) | 本人・家族の自己負担割合を3割に統合 |
| 時代 | 標準家族モデル | 扶養制度との整合性 |
|---|---|---|
| 1939年(創設当時) | 夫が出征・妻が専業主婦 | 整合していた |
| 高度経済成長期〜バブル期 | 夫が会社員・妻が専業主婦 | おおむね整合 |
| 2020年代(現在) | 共働き世帯が専業主婦世帯の約2倍 | 乖離が拡大 |
国民健康保険との不公平感
国民健康保険(国保)には「扶養」という概念がありません。 世帯員の人数に応じて保険料が加算されるため、 同じ収入構成の世帯でも、会社員か自営業かによって保険料に大きな差が生じています。
| 比較項目 | 会社員の妻(被扶養者) | 自営業者の妻(国保加入) |
|---|---|---|
| 保険料(年額) | 0円 | 約6.5〜8.2万円 |
| 扶養概念 | あり(130万円未満なら無料) | なし(収入に関わらず課金) |
| 子供の保険料 | 0円 | 人数分加算 |
| 医療給付 | 同等 | 同等 |
今後の方向性 — 「家族単位」から「個人単位」へ
財政審が示した議論の方向性は、社会保険の負担構造を「家族(世帯)単位」から「個人単位」に転換するというものです。 この流れはすでに複数の改正で始まっています。
財務省が指摘した「法的建て付けの問題」
健保法第110条は「被保険者の被扶養者が療養を受けたときは、被保険者に対し…家族療養費を支給する」と規定しています。 被扶養者は実際に医療を受けているにもかかわらず、法律上の権利は被保険者(夫等)に帰属する構造です。
- 医療費通知が被扶養者本人でなく被保険者(夫)に送付される → 個人情報保護の問題
- DV(家庭内暴力)のケースで、医療費通知の医療機関名から被害者の居場所が発覚した事例あり
- 被扶養者に「保険証を使う権利」はあるが、制度上は「被保険者の権利の代理行使」という建て付け
出所:本多伸行「加入者目線に立ち時代にかなった健保法改正を望む」(週刊社会保障 2020年7月6日)を財務省資料が引用
既に進んでいる個人単位化の流れ
- 医療費の窓口負担:「年齢ベース」から「所得ベース」へ(75歳以上も所得により2〜3割負担)
- 社会保険料の算定基礎:労働所得に加え「金融所得」を反映させる議論が進行中
- 被扶養者認定基準の厳格化:2026年4月から雇用契約ベースの確認が義務化
- 社会保険の適用拡大:2026年10月に106万円の壁が撤廃(週20時間以上は全員加入)
議論される「扶養廃止」の想定シナリオ
- 被扶養者(主に専業主婦)にも国保相当の保険料を課す
- 子供の被扶養者も段階的に有料化(未成年者の扱いは未確定)
- 見返りとして、被保険者本人の保険料を引き下げる可能性(未確定)
家計への試算(シミュレーション)
| ケース | 現行(家族単位) | 個人単位化後(試算) | 差額(年) |
|---|---|---|---|
| 会社員 + 専業主婦 | 本人分のみ | 本人分+妻分(約7〜8万円) | +約7〜8万円 |
| 会社員 + 専業主婦 + 子2人 | 本人分のみ | 本人分+妻分+子2人分(未確定) | +約15〜20万円以上? |
| 共働き世帯 | 本人・妻それぞれ支払い | ほぼ変わらない見込み | 影響小 |
国保保険料額は自治体により異なります。上記は全国平均水準をもとにした概算値です。 子供の保険料については現時点で未確定です。
確定情報 vs 未確定情報の整理
| 項目 | 状況 | 内容 |
|---|---|---|
| 健保組合の赤字 | 確定 | 約7割が赤字・総額2890億円(2026年4月28日発表) |
| 財政審での議論提起 | 確定 | 財務省財政制度等審議会が2026年4月28日に見直しを提起 |
| 扶養廃止・個人単位化の実施 | 未確定 | 議論中。実施・時期・方法はすべて未定 |
| 新たな保険料額 | 未確定 | 国保相当(年6.5〜8.2万円)との試算はあるが正式未定 |
| 子供(未成年)の扱い | 未確定 | 国保では課金対象だが、被扶養者の子供をどうするかは議論中 |
| 本人保険料の引き下げ | 未確定 | 扶養廃止の見返りとして下がる可能性はあるが未定 |
社労士試験対策ポイント
① 現行の被扶養者認定:収入要件(年齢別特例あり)
| 対象 | 収入要件 |
|---|---|
| 一般(〜59歳) | 130万円未満かつ被保険者の収入の2分の1未満 |
| 60歳以上・障害者 | 180万円未満かつ被保険者の収入の2分の1未満 |
| 19歳以上23歳未満(配偶者除く) | 150万円未満(特定被扶養者) |
| 18歳以下・在学中の学生 | 収入要件の適用なし(生計維持で認定) |
根拠:厚生労働省保険局通知(150万円特例は健保法施行令第37条)
② 国保と健保の被扶養者の違いを整理
国保に「被扶養者」の概念はなく世帯員全員が被保険者(保険料が発生)。 健保・共済のみ被扶養者制度がある。この対比は試験頻出。
③ 2026年4月の認定基準見直しは別の改正
雇用契約ベースの確認義務化(月額10.8万円・週20時間)は2026年4月施行の確定改正。 財政審の扶養廃止議論とは別物として整理すること。 →詳細は被扶養者認定基準 2026年4月改正 解説を参照。
③ 年金の第3号被保険者とセットで議論されている
財務省資料では「公的年金制度の第三号被保険者制度のみならず、医療保険における『被扶養者』のあり方についても見直しを検討すべき」と明記。 厚生年金の第3号被保険者(専業主婦等)の保険料免除問題と一体的に議論が進む見通しです。 社労士試験では健保の被扶養者と厚年の第3号を関連付けて理解しておくことが重要です。